目次
この記事のポイント
- GR/IR勘定は「入荷(Goods Receipt)と請求(Invoice Receipt)のタイミングのズレ」を一時的に預かる勘定科目
- 入荷時は在庫を増やしてGR/IR勘定を立て、請求時はGR/IR勘定を消して買掛金を計上。2つが揃えば残高はゼロに戻る
- 数量・単価のズレは明細単位の3ウェイマッチで発見し、数量差異・単価差異に分類して現場で対応する
- 月末のGR/IR滞留チェック(MB5S・MRBR)は「未着品・未請求」のサインを見つける経理の大切な仕事
01WHAT なぜGR/IR勘定が必要なのか:3つのタイミングのズレ
月末の経理。締めまで、あと3日。品物は届いたのに、請求書がまだ来ない——。SAPの購買・経理実務では、この光景は珍しいものではありません。品物が先に届くか、請求書が先に届くかは、発注・入荷・請求という3つのタイミングが業務上どうしてもズレるため、運や手際の問題ではなく「必ず起きること」として設計されています。
ズレの間、会計の記録はどうするのか
品物だけ届いた時点で、在庫は増えています。しかし請求書が来ていない以上、仕入先への負債(買掛金)をまだ計上できません。このまま何もしなければ、「在庫は増えたのに、仕入原価も負債も記録されない」という不整合が月末締めのタイミングで表面化します。決算の在庫金額・仕入金額が実態からズレてしまい、監査や月次決算のたびに経理が手作業で調整するハメになる——これがGR/IR勘定が生まれた背景です。
GR/IR勘定は「どこにも属さない一時の預り所」
貸借対照表の資産でも負債でもなく、純資産側の中間勘定として扱われるのがGR/IR勘定の特徴です。品物と請求書のどちらが先に来ても、その間の「差」をここに預けておき、2つが揃った時点で残高をゼロに戻します。
GRとIR、そしてGR/IR勘定の関係
まず用語を整理します。GRは Goods Receipt(入荷・入庫)、IRは Invoice Receipt(請求書受領)のことです。SAPではこの2つを別々のイベントとして記録し、その差を一時的に預かる勘定で調整します。それが「GR/IR勘定」です。入荷したら在庫を増やし、その反対側にGR/IR勘定を立てる。請求が来たらGR/IR勘定を消して買掛金を計上する——この2つの仕訳が揃えば、GR/IR勘定はきれいにゼロへ戻ります。
02POINTS GR/IRを実務で使う5つのステップ
では、実際のSAPでの一連の流れを、購買から支払までの5ステップで見ていきましょう。動画の4〜5フレーム目(46〜83秒)で描かれる部分です。
- 発注する(ME21N)品目・数量・単価・納期を発注書(PO)に確定します。このときの「発注数量・発注単価」が、あとで照合する基準になります。
- 入庫してGRを記録する(MIGO)品物が届いたら入庫処理を行い、在庫を増やします。その反対側にGR/IR勘定を立てるのがポイントです(借方:在庫/貸方:GR/IR勘定)。
- 請求書照合でIRを記録する(MIRO)請求書が届いたら請求書照合を行い、GR/IR勘定を消して買掛金を計上します(借方:GR/IR勘定/貸方:買掛金)。
- 3ウェイマッチで差異を検出する発注書・入庫伝票・請求書の3点を明細単位で突き合わせます。数量・単価・計算のズレは、この時点で自動チェックされ、保留・承認フローに乗ります。
- 月末に滞留をチェックする(MB5S・MRBR)GR/IR勘定に残った残高は「未着品(IR待ち)」「未請求(GR待ち)」のサイン。MB5Sで残高明細を、MRBRで保留請求書を確認し、原因をプロセス側で解消します。
Tコードで覚えるGR/IR
実務でよく使うのはこの4つ。発注=ME21N、入庫=MIGO、請求書照合=MIRO、月末の滞留確認=MB5S(GR/IR残高明細)・MRBR(保留請求書一覧)。とりあえずMIGOとMIROだけでも覚えておくと、購買業務の会話に困りません。
会計はどう動くか:入荷時と請求時の仕訳
動画の5フレーム目(63〜83秒)で描かれるのが、この会計処理です。入荷時に「在庫」の増加と「GR/IR勘定」の立て方が発生し、請求時に「GR/IR勘定」の消込と「買掛金」の計上が発生します。2つの仕訳が時間差でそろうことで、GR/IR勘定の残高はゼロに戻ります。この「一時的に預けて、揃ったら消す」という動きが、GR/IR勘定の本質です。
ズレたとき:数量差異・単価差異の実例
もちろん、必ず一致するとは限りません。動画の6フレーム目(83〜105秒)の実例を見てみましょう。100個注文して98個しか届かないのに、100個分の請求が来たら?これは数量のズレです。単価が違えば単価差異。SAPは明細単位で突き合わせるため、どこの発注・どの入庫・どの請求が食い違っているかを特定でき、現場で対応できます。受入超過は承認を得て請求書を修正する、単価差異は価格条件の変更や差異勘定への振り替えなど、業務ルールに沿って処理します。
差異を放置するとGR/IRに残高が滞留する
差異をそのまま転記し続けると、GR/IR勘定に残高がたまり続けます。「まだ揃っていない」のではなく「誰も対応していない」状態を生むため、月末の滞留チェックで放置残高を見つけ、原因別(未着品・未請求・差異)に処理することが経理の仕事です。
03INSIGHT 「買う」と「払う」をつなぐGR/IRの設計思想
GR/IRは、「買う」と「払う」をつなぐ橋です。発注書・納品書・請求書という3つの証憑を、同じ仕組みのなかで追いかける。それがSAP MMの強みであり、購買(MM)と会計(FI)という2つのモジュールをまたぐ設計になっている点もポイントです。動画のラスト(120〜134秒)では、この「橋」のイメージで締めくくっています。
新人研修やクライアント向けの教育では、「まず動画で全体像を見せてから、仕訳やTコードの詳細に入る」という順番が効果的です。冒頭の「月末締め・あと3日」というフックが、購買担当と経理担当の双方にとって身近なシチュエーションなので、GR/IRが「なぜ必要なのか」を先に腑に落としてから、仕組みの説明に入れます。ADTでは、このような教材づくりとあわせて、S/4HANA移行時の勘定設定見直しや、GR/IR滞留を減らす業務プロセス改善の支援も行っています。SAP MMの全体像はSAP MMとは?購買から入庫・支払までのProcure-to-Payプロセスを解説、発注書まわりの実務はSAPの購買依頼・発注書の印刷をME53NとME9Fで解決をご覧ください。
GR/IR勘定は「運転資本」の見方でも重要
財務の視点では、GR/IR残高の増減は運転資本(Working Capital)の変動として読みます。滞留が膨らむと、仕入債務の管理が曖昧になり、キャッシュフロー予測にも影響します。経理だけでなく、管理会計や経営企画の資料でもGR/IRは頻出する勘定です。
まとめ
- GR/IR勘定は、入荷(GR)と請求(IR)のタイミングのズレを一時的に預かる勘定科目
- 入荷時:在庫を増やし、その反対側にGR/IR勘定を立てる(借:在庫/貸:GR/IR勘定)
- 請求時:GR/IR勘定を消して買掛金を計上する(借:GR/IR勘定/貸:買掛金)
- 3ウェイマッチ(発注・入庫・請求の3点照合)で数量・単価・計算を明細単位で突き合わせる
- 差異は数量差異・単価差異に分類し、承認・修正など現場の業務ルールで対応する
- 月末のGR/IR滞留チェック(MB5S・MRBR)が「未着品・未請求」のサインを見つける経理の大切な仕事
04FAQ よくある質問
GR/IR勘定とは何ですか?
入荷(Goods Receipt)と請求(Invoice Receipt)のタイミングのズレを一時的に調整する勘定科目です。品物が先に届いた時点では在庫を増やしてGR/IR勘定を立て、請求書が届いた時点でGR/IR勘定を消して買掛金を計上します。
GRとIRの違いは何ですか?
GRは入荷・入庫(Goods Receipt)、IRは請求書受領(Invoice Receipt)です。GRで在庫とGR/IR勘定が発生し、IRでGR/IR勘定の消込と買掛金の計上が発生します。この2つを別々に記録するのが、SAPの設計上の特徴です。
数量や単価がズレたらどうすればいいですか?
3ウェイマッチ(発注数量・入庫数量・請求数量と単価の突き合わせ)で、どの明細が食い違っているかを特定します。数量差異・単価差異に分類し、受入超過は承認を得て請求書を修正するなど、会社の業務ルールに沿って対応します。
月末の滞留チェックはなぜ必要ですか?
GR/IR勘定に残った残高は「未着品(IR待ち)」「未請求(GR待ち)」のサインです。滞留を放置すると在庫・原価・買掛金のいずれかに不整合が残るため、MB5SやMRBRで定期的に確認し、原因(納品書未処理・請求遅延など)をプロセス側で解消します。
出典・参考
- SAP Help Portal — 購買管理(SAP MM)(SAP) https://help.sap.com/docs/SAP_S4HANA_ON-PREMISE
- SAP Help Portal — 請求書照合(Invoice Verification)(SAP) https://help.sap.com/docs/SAP_S4HANA_ON-PREMISE
- SAP Community — Goods Receipt(SAP) https://community.sap.com/topics/goods-receipt
- SAP Community — Invoice Verification(SAP) https://community.sap.com/topics/invoice-verification
※本記事は上記の公開情報をもとに、アラディンテクノロジー株式会社編集部が独自に整理・考察したものです。内容は執筆時点(2026-08-21)の情報です。考察部分は当社の見解であり、特定の製品・導入を推奨するものではありません。掲載の動画・図解は当社制作のイメージです。