目次
この記事のポイント
- AI CoreはBTP上でモデルの学習・デプロイ・運用を担うMLOps基盤
- Generative AI Hubは複数のLLMに統一インターフェースでアクセスできるサービス
- Orchestration Serviceがプロンプトテンプレート・グラウンディング・データマスキングを一元管理する
- CAPアプリからSDK/REST経由で呼び出すのが標準的な統合パターン
01WHAT AI CoreとGenerative AI Hubの役割分担
SAP BTP上でAI機能を組み込む際の土台となるのが、AI CoreとGenerative AI Hubの2つのサービスです。役割が異なるため、まず全体像を押さえておくと理解がスムーズです。
AI Coreとは何か:MLOpsの実行基盤
AI Coreは、機械学習モデルの学習・デプロイ・推論・監視までを一貫して行うMLOps基盤です。Kubernetesベースで動作し、独自に学習したモデルや、SAPが提供する事前学習済みモデル(AI Foundation内のシナリオ)を、スケーラブルな環境で運用できます。モデルのライフサイクル管理を担う「基盤」がAI Core、というイメージです。
Generative AI Hubとは何か:LLMへの統一アクセス
Generative AI Hub(AI Coreの機能の一部として提供)は、OpenAIやAnthropic、Googleなど複数のLLMプロバイダーのモデルに、SAPが用意した統一インターフェースでアクセスできるサービスです。モデルごとに異なるAPI仕様を意識せず、BTP契約の枠内でモデルを切り替えられる点が特徴です。中核となる「Orchestration Service」が、プロンプトテンプレートの管理、S/4HANAデータなどを参照する「グラウンディング(Grounding)」、個人情報などを伏せる「データマスキング」、不適切な出力を防ぐ「コンテンツフィルタリング」を一元的に扱います。
用語補足:グラウンディングとマスキング
グラウンディングは、LLMの回答にS/4HANAなど自社データの裏付けを与える仕組み(RAGに近い考え方)。マスキングは、氏名・取引先名などの個人情報・機密情報をLLMに渡す前に伏せ字化する仕組みで、Orchestration Serviceの設定で有効化できる。
02POINTS 生成AIアプリを組み込む5ステップ
- ①BTPサブアカウントでAI CoreをセットアップAI Launchpad(管理コンソール)からAI Coreのシナリオを有効化し、リソースグループを作成する。
- ②Generative AI Hubで使いたいモデルを有効化モデルライブラリから利用したいLLMを選び、デプロイメントを作成してエンドポイントを取得する。
- ③Orchestration Serviceでプロンプトとグラウンディングを設定プロンプトテンプレート、参照させたいデータソース、マスキング対象の項目を設定する。
- ④CAPアプリからSDK/RESTで呼び出すCAPアプリケーションのRemote Service経由でOrchestration Serviceのエンドポイントを呼び出し、業務ロジックに組み込む。
- ⑤コンテンツフィルタリング・監視の設定不適切な出力の検知、利用量・コストの監視を設定し、本番運用に備える。
モデル選定で失敗しないために
複数のLLMを統一インターフェースで切り替えられるのがGenerative AI Hubの強み。本番投入前に、同じプロンプトを複数モデルで試し、回答精度・レイテンシ・コストを比較してから採用モデルを決めると、後からの切り替えコストを抑えられる。
03INSIGHT クラウドLLMとローカルLLM、どちらを選ぶか
Generative AI Hubは複数のクラウドLLMプロバイダーに接続できる柔軟性が強みですが、業界や取引先によっては、機密データを外部のクラウドLLMに一切送りたくないという要件もあります。そうしたケースでは、社内ネットワーク内で完結するローカルLLMという選択肢が有効です。ローカルLLMを使ったSAP×AI活用の考え方はローカルLLMで実現する、安全なSAP×AI活用で詳しく解説しています。実務では、機密度の低い業務はGenerative AI Hub、機密性の高い業務はローカルLLMと使い分けるハイブリッド構成も現実的な選択肢です。
どちらのアプローチでも、S/4HANAデータとLLMをつなぐ拡張アプリはBTP上のCAPで構築するのが標準パターンです。CAPの基本はSAP BTP CAP入門:Cloud Application Programming Modelで作るS/4HANA拡張アプリを、S/4HANA本体側の拡張と組み合わせたい場合はRAPとの役割分担も理解しておくと設計の幅が広がります。詳しくはSAP RAPとは?ABAP RESTful Application ModelでS/4HANA本体を拡張するをご覧ください。
豆知識:AI Foundationとの関係
AI Core・Generative AI Hubは、SAPが提供する「AI Foundation」という枠組みの中核サービスに位置づけられる。AI Foundationにはこの他にも、Document Information Extraction(帳票読み取り)など業務特化型のAIサービスが含まれる。
まとめ
- AI CoreはBTP上でモデルの学習・デプロイ・運用を担うMLOps基盤
- Generative AI Hubは複数のLLMプロバイダーへの統一インターフェース
- Orchestration Serviceがプロンプト管理・グラウンディング・マスキング・フィルタリングを一元化する
- CAPアプリからSDK/RESTで呼び出すのが標準的な統合パターン
- 機密度に応じてクラウドLLM(Generative AI Hub)とローカルLLMを使い分けるハイブリッド構成も選択肢になる
04FAQ よくある質問
AI CoreとGenerative AI Hubの違いは何ですか?
AI Coreはモデルの学習・デプロイ・運用を行うMLOps基盤全体を指し、Generative AI HubはそのAI Coreの機能の一部として提供される、複数LLMへの統一アクセスサービスです。生成AI活用の入り口として使われるのが主にGenerative AI Hubです。
S/4HANAのデータが外部のLLMプロバイダーに送られてしまいませんか?
Orchestration Serviceのデータマスキング機能で、氏名や取引先名などの個人情報・機密情報をLLMに渡す前に伏せ字化できます。とはいえマスキング対象は事前設定が必要なため、機密性が極めて高いデータを扱う場合はローカルLLMの併用も検討すべきです。
利用料金の仕組みはどうなっていますか?
BTPのサブスクリプションに加え、AI Coreのリソース利用量、Generative AI Hub経由で呼び出すLLMのトークン消費量に応じた従量課金が発生します。本番投入前にモデル比較でコストの見積もりをしておくことをおすすめします。
何から始めればいいですか?
まずはBTPのトライアルアカウントでAI Coreのシナリオを有効化し、Generative AI Hubのモデルライブラリから1つモデルを選んでプロンプトを試すのが近道です。慣れてきたらOrchestration Serviceのグラウンディング設定に進みましょう。
出典・参考
- SAP Help Portal — SAP AI Core(SAP) https://help.sap.com/docs/ai-core
- SAP Community — Artificial Intelligence(SAP) https://community.sap.com/topics/artificial-intelligence
※本記事は上記の公開情報をもとに、アラディンテクノロジー株式会社編集部が独自に整理・考察したものです。内容は執筆時点(2026-08-19)の情報です。考察部分は当社の見解であり、特定の製品・導入を推奨するものではありません。