この記事のポイント
- BTPテクニカルアーキテクトの仕事は「作る」より「置き場所とつなぎ方を決める」こと
- 必須スキルの核心はJava/Spring の実装経験。設計と実装を往復できる人材が想定されている
- 歓迎スキルにKafka・Azure Service Bus・Amazon EventBridgeが並ぶ=非SAPのクラウドネイティブ連携経験の評価
- 複数名の募集は役割分担が前提。全体設計/連携/API・イベント/データというポジション
- BTPは経験者が薄く、S/4HANA移行が続く限り設計できる人材の需要は続く
01WHAT BTPテクニカルアーキテクトは何をする人か
SAP BTP(Business Technology Platform)は、S/4HANAや周辺システムを「拡張する」「つなぐ」「データを活かす」ためのSAPのクラウド基盤です。テクニカルアーキテクトは、このBTP上で何をどこに置き、どう接続するかを設計する役割を指します。中心にあるのは実装そのものではなく、方式の選択と、関係者間でその選択を合意させる仕事です。
なぜ今、BTPのアーキテクトが必要なのか
S/4HANA移行の標準方針がClean Coreに変わったことが最大の理由です。ECC時代は、標準機能にアドオンやユーザExitを追加して要件を満たすのが一般的でした。しかしコアを改造すると、アップグレードのたびに改修が発生し、保守コストが積み上がります。Clean Coreは「コアは標準のまま使い、拡張は外に出す」という考え方で、その受け皿がBTPです。結果として、拡張をどこにどう置くかを設計できる人材が、移行プロジェクトごとに必要になりました。
実案件の担当業務を4つの柱に分解する
実案件で示される担当業務は、大きく4つの柱に整理できます。①全体設計(BTP Architecture/Cloud Architecture)、②連携・拡張(Side-by-Side Extension/IF・Batch Architecture/Integration Suite)、③API・イベント(API管理/Event Mesh)、④データ(データ移行/マスタ整流化)です。注目したいのは④の「移行」と「整流化」が担当に含まれる点で、新規開発だけでなく既存のインタフェースやマスタをどう移し、どう整えるかまでが設計対象になります。
用語:Side-by-Side拡張とは
S/4HANAコアの外側(BTP上)にアプリケーションを作り、APIやイベントで本体と連携する拡張方式です。コア内部を直接拡張する「on-stack拡張」(ABAP Cloudなど)と対比して使われます。Clean Coreでは、このSide-by-Sideが拡張の主戦場になります。
02POINTS 求められる5つのスキル
必須として挙げられるのは、①SAP BTPの経験 ②クラウドアーキテクチャ設計 ③API設計 ④システム連携アーキテクチャ設計 ⑤Java/Springの開発経験です。この5つを並べると、求める人物像がはっきり見えてきます。
必須スキルが示す「設計と実装の往復」
①〜④はアーキテクトとして自然な要件です。本当のメッセージは⑤にあります。Java/Springの開発経験は、図を描くだけでなく、CAP(Cloud Application Programming Model)のJava実装やSpring Bootのマイクロサービスを自分で書けることを意味します。実装の解像度がないと、設計は空論になります。BTPのアーキテクトは「実装できる設計者」であることが求められているのです。
②クラウドアーキテクチャ設計も軽視できません。SAPの知識だけでは、可用性・スケーラビリティ・オンプレ接続(Cloud Connector)・認証基盤の設計はできません。SAP領域とクラウド領域、両方の語彙を持つことが前提になります。
歓迎スキルが示す「クラウドネイティブな連携」
歓迎スキルは、Integration SuiteやABAP CloudといったSAP側の技術と、Kafka・RabbitMQ・ActiveMQ・Azure Service Bus・Amazon EventBridgeといった非SAPのメッセージング基盤の2グループに分かれます。後者が並んでいる点が重要です。BTPの中だけで完結する設計ではなく、他クラウドのサービスと組み合わせて連携を設計できるかが評価対象になります。
| 歓迎スキル | 読み取れる設計領域 |
|---|---|
| Integration Suite(CPI) | 既存IFのクラウド移行、アダプタ選定、監視と再処理 |
| ABAP Cloud | Clean Core準拠のon-stack拡張(RAP) |
| Event Mesh | 同期IFの非同期化、pub/subによる疎結合 |
| ETL/EAI・Migration Cockpit | データ移行、クレンジング、リハーサル設計 |
| Kafka/RabbitMQ/ActiveMQ | メッセージング基盤の設計・運用 |
| Azure Service Bus/Amazon EventBridge | 他クラウドと組み合わせたハイブリッド連携 |
- BTPの経験を棚卸しする。Cloud Foundry/Kyma/ABAP Environmentのどの実行環境で、どのサービスを「設計した」のかを案件ごとに書き出します。構築作業だけでなく方式判断の経験を探します。
- Java/Springの実装経験をSAP案件以外も含めて記載する。CAP(Java)やSpring Bootで何を作ったかが、設計と実装を往復できる証拠になります。
- 連携の設計経験を数字で示す。移行したIF本数、イベント化した件数、再処理を自動化した割合など、規模と効果を添えます。
- API設計は「公開・版管理・認証・レート制御」の4点で語る。ツール名の羅列ではなく、誰にどう公開し、どう統制するかを説明できるようにします。
- データ移行とマスタ整流化の経験を加える。移行リハーサルの回数と手戻り件数があると、設計の実効性を示せます。
複数名の募集は「役割を分けて募集している」
複数名での募集は、1人が全部を満たす必要はないという意味でもあります。Integration Suiteが強い、データ移行が強い、といった軸で自分がどのポジションに入れるかを明確にすると、提案が通りやすくなります。
03INSIGHT チームでの役割分担とキャリア価値
複数名での募集は、役割を分けて設計を回す体制を意味します。BTP上の技術要素を分担すると、①全体設計 ②連携 ③API・イベント ④データというポジションに自然に分かれます。単独で全部を抱えるのではなく、分担して相互にレビューできることが前提です。
分担には、相互レビューが成立するという利点があります。連携の設計者はAPI設計をレビューでき、データの設計者は連携方式をレビューできる。設計の質は人数ではなく、レビューの密度で決まるため、この体制には合理性があります。
キャリアの観点では、BTPはSAP領域の中でも経験者が薄い分野です。S/4HANA移行は2027年の保守期限を控えて案件が続き、その多くがClean Core方針を採ります。つまり、拡張と連携の設計ができる人材への需要は、移行が一巡するまで続くという構造です。ABAPだけ、Javaだけではなく、両方の語彙を持つ人材の希少性は高い状態が続いています。
豆知識:Clean Coreは「禁止」ではなく「分離」
Clean Coreはコアを一切触ってはいけないという意味ではありません。標準で足りる要件は標準で実装し、足りない部分を明確に分離して外に置く、という設計原則です。拡張の総量を減らすことより、拡張の在処を説明できることのほうが重要です。
まとめ
- BTPテクニカルアーキテクトの役割は「拡張の置き場所とつなぎ方の設計」
- Clean Coreにより、コア改造からBTPへの外出しへ流れが変わった
- 必須5スキルの核心はJava/Springの実装経験=設計と実装の往復
- 歓迎スキルにKafka・Service Bus・EventBridgeが並び、クラウドネイティブ連携が評価される
- 複数名の募集は役割分担が前提。自分が入れるポジションを明確にして提案する
出典・参考
- Side-by-Side Extensibility(SAP Help Portal) https://help.sap.com/docs/btp/sap-business-technology-platform/side-by-side-extensibility
- Cloud Application Programming Model(SAP Help Portal) https://help.sap.com/docs/btp/sap-business-technology-platform/cloud-application-programming-model
- SAP Integration Suite(SAP Help Portal) https://help.sap.com/docs/integration-suite
- SAP Event Mesh(SAP Help Portal) https://help.sap.com/docs/event-mesh
- ABAP Cloud Developer Guide(SAP Help Portal) https://help.sap.com/docs/abap-cloud/abap-cloud-developer-guide
※本記事は上記の公開情報をもとに、アラディンテクノロジー株式会社編集部が独自に整理・考察したものです。内容は執筆時点(2026-09-17)の情報です。考察部分は当社の見解であり、特定の製品・導入を推奨するものではありません。
04FAQ よくある質問
SAP BTPの経験が浅くても、テクニカルアーキテクトを目指せますか?
目指せます。BTPのサービス経験そのものより、「クラウドで設計できるか」と「実装できるか」の比重が大きい案件です。Java/Springやメッセージング基盤(Kafka・Service Busなど)の経験が厚ければ、BTPの知識は案件の中で補えます。まずはIntegration SuiteやCAPのハンズオンで語彙を揃えるのが現実的です。
Javaの経験がないと難しいですか?
必須要件にJava/Springが入っている以上、実装を伴う設計を担うポジションでは必要です。ただし募集枠のすべてがJava実装を担当するわけではなく、API設計やデータ移行が主担当のポジションもあります。応募・提案の際は、自分の担当範囲と実装経験を切り分けて伝えると誤解が減ります。
ABAP CloudとSide-by-Side拡張はどう使い分けますか?
判断軸は「コアのデータや処理にどれだけ近いか」です。コアの業務データを直接扱い、標準に近い振る舞いが必要ならABAP Cloud(on-stack、RAP)が適します。独自のUIや外部サービス連携、コアを汚さずに独立性を持たせたい場合はSide-by-Side(CAPやSpring Boot)が適します。両方を設計できると、要件に応じて選べる強みになります。
テクニカルアーキテクトに資格は必要ですか?
必須ではありません。SAP認定資格は基礎知識の証明にはなりますが、設計力の評価は「どの方式をなぜ選んだか」を説明できる経験に集約されます。資格取得の過程で用語と選択肢を整理しておくことは、提案時の説明力向上に有効です。